翻訳手法の正しい使い分け
機械翻訳(※1)やポストエディティング(※2)、クラウド翻訳(※3)、人力翻訳(※4)など、「翻訳」と一概に言ってもその手法はさまざまです。「AI翻訳」「ニューラル翻訳」という呼称によって先進的なイメージを想起させ、自治体などが積極的に導入を進め活況を呈している(ように見える)機械翻訳の精度(翻訳品質)については、Google翻訳などを一度でも利用したことがある人であれば、どの程度か想像がつくと思います。
※1 コンピューターによって機械的に行われる翻訳(自動翻訳の一部)
※2 機械翻訳による翻訳文に、人(主に翻訳者)による校正、校閲を施すこと
※3 翻訳依頼主と翻訳者を結ぶマッチングサービス(翻訳マッチングサービスとも呼ばれる、翻訳に特化していないサービスも含む)
※4 人(主に翻訳者)による翻訳
これら翻訳手法はその優劣や良し悪しを比較するものではなく、それぞれの手法に一長一短があるので、コスト、品質、納期など「翻訳に何を求めるか」によって賢く「使い分ける」ことが大切です。
ここでは、それぞれどのように「使い分ける」べきかについて解説します。
翻訳コストを重視する場合
言わずもがなですが、「機械翻訳」がもっともコストを抑えることのできる翻訳手法です。Google翻訳を使えば無料であり、専業各社がパッケージ(またはオンライン)販売している有料機械ソフトを購入しても、減価償却にさほど時間を費やしません。ただし、機械翻訳を用いる場合は相応の翻訳品質を許容する必要があります。
・海外とのメールのやりとりなど、多少のミスコミュニケーションは大きな問題にならない
・原文が文章ではなく単語の羅列である(ECサイトに於ける商品名など)
・自分自身がざっと内容、概要を把握するだけである
・自身に外国語能力があるまたは、そのようなスタッフが身近にいるためあとで翻訳を校正できる
・文末に「機械による翻訳」「これは機械翻訳です」という免責事項を加えて利用できる
といった場合には、機械翻訳はコスト面で大きく貢献してくれることでしょう。
ただし、上記以外の状況下にある場合、コストだけを重視して安易に機械翻訳を使うのは避けたほうが賢明です。
翻訳納期を重視する場合
納期を重視する場合も「機械翻訳」を選択することに異論はないでしょう。機械翻訳の場合は瞬時に作業が完了するので、納期といっても機械翻訳するための準備に掛かる時間程度で、実質的に納期は存在しないといっても過言でもありません。
ただしこちらの場合も前述の「コスト」同様、「それでよいのか」が使う上での判断基準となります。いくら納期が短いといっても、できあがった翻訳が使えるものでない場合は(翻訳者による翻訳を依頼しなければならないなど)かえって時間(納期)の掛かる大変な作業になる可能性があることを考える必要があります。
翻訳品質を重視する場合
「翻訳コストを重視する場合」「翻訳納期を重視する場合」それぞれの前提になっているのは「それ以外は許容できる、または犠牲にしてよい」ということですが、実際にそのようなケースはあまりありません。いずれを重視しようと「ある一定の翻訳品質は必要」という前提があってのことではないでしょうか。そこで重要になってくるのが「翻訳品質を基準とする場合」の「翻訳手法の使い分け」です。
では、「翻訳品質を重視する場合」はそれぞれの翻訳手法をどのように使い分ければ良いのでしょうか。「翻訳品質」で比べた場合、それぞれの手法の位置付けは以下のようになります
翻訳品質 | |||
低品質 | 中品質 | 高品質 | |
機械翻訳 | ポストエディティング | クラウド翻訳 | 人力翻訳 |
(機械のみ) | (機械+人) | (人のみ) | (人のみ) |
この表は「品質」を「料金」に置き換えても成立しますが、あえて説明を加えると
■機械翻訳
無料または、有料でも減価償却が早くコストを抑えられるが、翻訳品質は機械の精度に大きく依存する。
■ポストエディティング
機械翻訳をベースとしているためすべてを人が翻訳するより料金を抑えることができるが、機械の精度によっては人が校正し切れない可能性もある。
※ただし、それ以外にも実際には(労力とコストが見合わないなど)さまざまな問題を内包しています
■クラウド翻訳
マッチングサービスにつき(通常の人力翻訳より)競争原理が働き料金が下がる可能性があるが、翻訳者の力量に大きく依存する(左右される)こと、また、人力翻訳サービスを提供する翻訳会社のような「チェック」「ネイティブチェック」工程がない場合が多い。
■人力翻訳
これらのなかではもっとも翻訳品質に期待できる手法だが相応の料金が発生する。
このようにそれぞれの手法は翻訳品質面に於いて大きくその特徴が異なるため、「必要とする翻訳品質がどの程度か」をまず最初の基準とした上で、次に必要な要素との掛け合わせ(バランス)で翻訳手法を選ぶことが肝要です。それぞれのパターンに於ける使い分けについては次のとおりです。
翻訳コストと翻訳納期を重視する場合
このように複合的な要素が求められる場合の使い分けは次のとおりです。
■翻訳品質を問わない場合(高品質を必要としないかまたは、自身、自社で校正できる場合)
機械翻訳を選択してよいでしょう。
■機械翻訳以上の翻訳品質を求める場合(ただし人力翻訳ほどの高品質は求めない場合)
ポストエディティングかクラウド翻訳いずれかの選択になりますが、いずれの場合もコストは(結果的に)あまり変わらない可能性があります。
ポストエディティングの場合はまず原稿(翻訳前の原稿、原文)が機械翻訳に適したものかどうかでその後の校正、校閲に掛かる作業負荷が決まるため、依頼先から呈示されるコスト(見積)に多少の開き(レンジ)やばらつきが生じる可能性があります。
クラウド翻訳の場合は料金が固定されている場合が多いですが、いずれも人力翻訳と比べて「早い、安い、そこそこの品質」を売りにしているため、難易度の高い原稿の場合はマッチングが成立せず(対応する翻訳者が見つからず)、納期に間に合わない可能性もあります。
翻訳納期と翻訳品質を重視する場合
ここで述べる「翻訳品質を重視する場合」とは、「機械翻訳の品質では要求を満たせない場合」を指しますが、「翻訳料金と翻訳品質」同様、「翻訳納期と翻訳品質」はもっとも相反する要素であることをまず理解しましょう。必要以上に長い納期にあまり意味はありませんが、十分な納期を確保することは翻訳品質を高めるためになによりも大切だからです。
しかしながら「翻訳納期と翻訳品質を重視する場合」言い換えると「翻訳品質を求めつつも短納期を実現したい場合」は、求める「翻訳品質」によって「人力翻訳」「クラウド翻訳」「ポストエディティング」と順を追って検討していくとよいでしょう。
「人力翻訳」でも、翻訳支援ツールの利用や複数名の翻訳者による作業同時進行で、ある程度の納期短縮は可能です。また、「クラウド翻訳」の場合は、原稿を分割して何人かの翻訳者に依頼することもできるでしょう。ポストエディティングは3つの選択肢の中ではもっとも短納期を実現できる可能性がありますが、前述のとおり「機械翻訳をベースとしている」点から十分な翻訳品質が確保できない可能性があることを念頭に検討が必要です。
翻訳品質と翻訳コストを重視する場合
前述のとおり、この二つの要素はもっとも相反するものであり、どちらか一方を重視する場合は他方を犠牲する必要があります。しかしこちらについても「求める翻訳品質とコスト」にはある程度の幅があると思いますので、「求める翻訳品質」によって「人力翻訳」「クラウド翻訳」「ポストエディティング」「機械翻訳」と順を追って検討していくことで、コストを下げていくことは可能です。
まとめ
このように翻訳手法はさまざまであり、今回大きく4つに分けて紹介した翻訳手法それぞれにはさらに細かな違いがあります。
無料の機械翻訳が汎用性を重視していることに対し、有料の機械翻訳は特定の分野を対象に精度を高めているため、厳密には同じとは言えません。また、ポストエディティングについては将来、機械翻訳に完全移行するまでの新しい翻訳手法として力を入れている翻訳会社その他企業も多く、サービス内容や料金にも多少の違いが生じることでしょう。クラウド翻訳についても(電子ファイルのアップロード、ダウンロード可否、ネイティブチェック対応など)サービス提供各社それぞれが差別化を図っています。人力翻訳についても得意分野、対応可能言語、翻訳実績、業歴、規模などで大きな違いがあります。
さらに、翻訳を依頼する側にしても、その目的、期待する効果、翻訳依頼先に求める内容(コスト、納期、品質など)はさまざまですので、両者が上手くミックス(噛み合う)ところを探すことこそが「翻訳手法の正しい使い分け」になるのです。
以上が「翻訳手法の正しい使い分け」についてですが、詳細確認がご必要な場合はお気軽にお問い合わせください!